事例でわかる 労働審判手続の流れ&対応のポイント
- 1.増加する労使トラブルと労働審判制度の現状
- 2.労働審判手続の特徴
- 3.労働審判手続の仕組み
- 4.労働審判に対する企業・弁護士それぞれの関わり方
- 5.事例でわかる「労働審判」対応時のポイント&留意点
- ①第一回打ち合わせのポイント →(5月24日 D弁護士事務所にて)から
- ②第二回打ち合わせのポイント →(6月14日・D弁護士事務所にて)から
- ③第一回審判期日のポイント→(6月18日 第1回期日:書記官に申立人相手方双方が審判廷に入るように求められる)から
②第二回打ち合わせのポイント
お忙しいところご来所いただき助かります。今日は、審尋と調停について協議したいと思います。
第1回期日の手続きは具体的にどのように進められるのですか。
第1回期日では、まず、①争点や証拠の整理つまり申立書や答弁書の主張、提出した証拠の調べや不十分な主張や証拠があればその説明や補充が求められることになります。次に、②審尋つまり当事者や関係人から事情聞く証拠調べがあります。その後、③調停つまり話合いが行われます。
争点や証拠の整理はどのように進められるのですか。
審判官である裁判官が当事者に争点や証拠の確認、補充説明を求めるといった形式で進められます。本件では、賃金カットについてCの同意があったのか、整理解雇の有効性を判断する4つの要素が争点です。
審尋はどのように進められるのですか。
一般的には、審判官が当事者や事件に関係する関係人に質問をし、次に審判員が質問をするという形になります。場合によっては、代理人に事実上の反対尋問を許してもらえることもあります。審判官の質問はかなり矢継ぎ早になされますので、落ち着いて対応することと事前に答弁書を読んでおくことをお勧めします。
大変ですね・・。どんなことが聞かれますか。
まず、賃金カットについてのCの同意の有無については、Cから書面による同意を得ていないのでCの同意があったとはいえないのではないかということについて質問が出ると思います。
書面よる同意は得ていませんが、社内メールでCは、賃金カットはいつまで続くのか私に聞いてきています。その際、私が、1年を目処に、その後賃金カットを続けるか検討すると言ったところ、それでは困るとメールで返信してきました。私は少なくとも1年程度の賃金カットをCは了解しているのだと思いました。
審判官に聞かれたらそのことを審判官に話してください。次に、整理解雇については、人員削減の必要性ですが、資料を見ると社長の報酬は高いようですが。この点を聞かれるかもしれません。
報酬は数年前にかなり景気の良いときがあってそのときにかなりの報酬を得ていたので、ここ2年で30%ほどカットしたのですが、まだそれなりの金額になっています。私も個人で銀行借入をして、それを会社の事業資金として貸し付けていたことがあり、その返済もかなりの金額になっており、手取りは、部長クラスと同程度になっています。
審判官からこの点を聞かれたらそのような説明をしてください。
他に審判官から聞かれそうなところはありますか。
ひとまず答弁書をお読みになっておいてください。前回の打ち合わせ内容に沿って詳しく書いてあります。Cに対する整理解雇の説明や解雇通知は、B社長一人が行ったのですか。
当社は小さな会社なので、私一人でやりました。
わかりました。Cに対し他に対応した人がいるのであれば、関係人として審判に出席してもらう可能性があったのですが、そのようなこともないようですね。ところで今日は、審尋の後の調停について打ち合わせたいと考えています。
調停とは話し合いでしょう。私は間違ったことをしたつもりはありません。話合いではなく、審判で結論を出せばいいのではないでしょうか。
調停は、労働委員会が審尋等を経て心証を形成した後になされるのが通常です。したがって、労働審判委員会の調停案は、調停が成立しない場合の審判と同じようなものになります。むしろ、調停案の方が審判より使用者側に有利な場合もあります。しかも、調停が不成立となった後の審判は、審判に異議が申し立てられ、その後に通常訴訟に移行したのちの和解案や判決に重大な影響を与えます。通常訴訟では、審判が尊重されるといえます。したがって、労働審判委員会の調停は、軽視することができません。
私は、以前に、簡易裁判所で民事調停を経験していますが、労働審判の調停はそれとかなり違うのですね。
そのとおりです。むしろ、こちらから積極的に調停案を出すということも考えた方が良い場合もあります。
どうしたらいいでしょうか。
まず、賃金カットについてCの同意を得ていたか否かという点はかなり微妙です。審判官の心証が、同意を得ていないという場合には、元の賃金をベースに調停案を作成する必要が生じます。整理解雇については、労働審判委員会の心証が「整理解雇有効」の方向なら、昨年10月から今年3月までの賃金、解雇予告手当についてカット分の上乗せが調停案の骨子となります。仮に、整理解雇について、労働委員会の心証が「整理解雇無効」の方向であると、調停日までの賃金相当額の支払いは覚悟しなければなりません。また、Cにどうしても退職して欲しいと言うことであれば金銭的な上乗せも必要となるでしょう。
どの程度上乗せを考えればいいのでしょうか。
社長は、Cと解雇直前に話をしたようですが、Cから条件のようなものは出なかったのですか。
息子さんが来年3月に大学を卒業するので大変だといっていました。そこまでは面倒見てくれないかといっていました。
解雇が無効となれば、その辺りが話合いのポイントになるかもしれません。それでは、今日の打ち合わせはこれで終わりにしましょう。6月18日午前10時30分から労働審判の第1回期日が開かれますから、10分前までに、着くようにしておいてください。