事例でわかる 労働審判手続の流れ&対応のポイント
- 1.増加する労使トラブルと労働審判制度の現状
- 2.労働審判手続の特徴
- 3.労働審判手続の仕組み
- 4.労働審判に対する企業・弁護士それぞれの関わり方
- 5.事例でわかる「労働審判」対応時のポイント&留意点
- ①第一回打ち合わせのポイント →(5月24日 D弁護士事務所にて)から
- ②第二回打ち合わせのポイント →(6月14日・D弁護士事務所にて)から
- ③第一回審判期日のポイント→(6月18日 第1回期日:書記官に申立人相手方双方が審判廷に入るように求められる)から
第一回審判期日のポイント
(6月18日 第1回期日:書記官に申立人相手方双方が審判廷に入るように求められる)
審判官、Cさんは去年の10月以降合同労組Xに相談していました。そこで、今回Xの委員長を関係人として審判廷に入れたいのですが、よろしいでしょうか。
Cさんが誰に相談していたか否かは本件に関わりません。必要であればCさん自身の口で話をしてもらえばいいのではないでしょうか。A社の代理人はどのようにお考えですか。
Cさんが合同労組Xに相談していたというのは初耳です。労働審判に、相談相手の方の同席は不要だと思います。
それではXの委員長を関係人としての出席させることは認めないことにします。本件の主要な争点は賃金カットの同意の有無と整理解雇の有効性ということでよろしいでしょうか。それでは、Cさんの側で答弁書についてなにか反論がございますか。
まず賃金カットについては、メールのやりとりはあくまで賃金カットの交渉過程を示すものに過ぎず、これをもって賃金カットにCさんが同意したとはいえません。整理解雇については、希望退職の募集をデザイナーではなく営業職に限って行うこともできたと思いますので、これをしていない点で解雇回避努力義務が尽くされていないと思います。また、Cさんの成績が悪いのは、ここ数年のことであり、またCさんの顧客がたまたま経営不振になった会社が多かったという特殊事情によるものであり、被解雇者選定にも問題があります。またB社長からはその点について明確な回答を得られていません。A社の説明は不十分だといえます。
Cさん、賃金カットについてあなたは同意していないのですか。
同意していません。
B社長、賃金カットについて書面等で同意を取っていなかったのですか。
書面で同意は取っていませんが、朝礼で話をしたところCさんを含め誰からも異論が出ませんでした。メールでもCさんは、賃金カット自体には同意していました。
メールは、B社長が賃金カットを1年は継続したいと言っているのをCが困ると言っているのであって、1年の賃金カットはCも認めていたということにはならないのではないでしょうか。
朝礼で話したところ異議が出ませんでした。
賃金という重要な事項については、異議が朝礼で出なかったからといって直ちにそのカットについて了解していたとまでいえるか疑問があります。では、整理解雇の点に移りますが、社長の報酬が減額されているとはいえ高いように思えますが、その点はいかがですか。
ここ2年で30%ほどカットました。私も個人で銀行借入をしてそれを会社の事業資金として貸し付けていたことがあり、その返済もかなりの金額になっており、手取りは、部長クラスと同程度になっています。
B社長は、現在手取り月60万円ですが、そのうち金融機関への返済が20万円を占めており、個人の住宅ローンもまだ月15万円ほど返済しており、実質手取額は25万円程度になります。
希望退職の募集を行っていませんがこれはなぜですか。営業職だけでも行うことはできなかったのですか。
当社のような中小企業では、希望退職など募集すると、社員に大きな動揺を与えるとともに、優秀な社員から辞めてしまい、事業継続ができなくなるおそれがあります。営業職でも優秀な社員はおります。辞めてもらっては困ります。
A社では、賃金カットをしたり、アルバイトの雇止めをしたりしてリストラが進んでいたので、従業員はかなり神経質になっていたと思います。希望退職をしなかったから解雇回避努力義務をしていないとは言えないと思います。また、B社長は、Cさんの解雇前にCさんに対し退職を勧奨しています。
整理解雇の有効性は、総合的な判断なので、希望退職の募集をしなかったというだけで整理解雇が無効になるわけではありません。では、Cさんをなぜ解雇の対象者としたのでしょうか。
当社の営業社員は7名おります。7名については、毎月各人の売上が出るようになっており、それが賞与の基準にもなっています。それを見れば、Cさんの成績が一番悪いことははっきりします。
数年前まで、Cさんは営業成績が良かったのですか。
はい。
Cさんの営業成績が落ちたのは、たまたま取引先が経営不振であったということはないのですか。
他の取引先も多かれ少なかれこのご時世で経営不振と言えます。他の営業社員は、一生懸命顧客廻りをして営業成績を維持するようにしています。しかし、Cさんはそのような努力をしていません。
証拠として営業社員の日報を出しております。Cさん以外の営業社員は顧客訪問を多くしていますが、Cさんがそれを怠っていたことはそれから明らかです。
Cさんはどうですか。
社内で電話をかけるなどして顧客との連絡は密に取っています。
あまり直接訪問はしていなかったのですね。
そのとおりです。しかし、私のようなベテランになれば、直接訪問をしなくとも顧客と関係は維持できます。
通常の対策で顧客を維持できないなら訪問することを考えても良かったのではないでしょうか。
(その後も審判官から当事者への審尋が続く)
それでは、審判員の皆さん、何か当事者に質問がありますか。・・・特にないようですので、これから評議を行います。当事者は廊下でお待ちください。